第67章 里山での暮らし
「結鈴、安心しているところ悪いけど、傷はまだいっぱいあるからね」
舞が容赦ない手つきで傷を洗い、消毒していく。
『いたいいたい!』と叫ぶ声が響き渡る。
がらっ
勢いよく開いた戸に、誰もが『パパ(謙信)が帰ってきた』と思った。
……が、身体を滑り込ませて入ってきたのは謙信ではなく、
光秀「どうした、結鈴?」
町人風の装いをした光秀だった。
信長に遅れて、今港町から帰ってきたようだ。
里山を出る時は皆、港町で目立たないよう町人の格好をしている。
結鈴「光秀さん……」
結鈴が顔をぐしゃっとゆがめ、信長は結鈴を抱き上げると光秀に『座れ』と視線で促した。
信長「結鈴の想い人が帰ってきたな。光秀、代われ」
光秀「はい」
信長の隣に座った光秀の膝に、結鈴が乗せられた。
結鈴は泣きべそをかいたまま嬉しそうにしている。
「動かないでね、薬塗るよ」
結鈴「う、しみる…いたい!
もー!!!ママ、もっと優しくしてよ!」
「してるよ!こういうのはパパっと短時間でやった方がいいの!」
結鈴「全然優しくない!い、いたい!」
「もう!動くから上手く塗れないじゃない!」
ギャーギャーと口うるさく応戦するふたりに、信長と光秀、龍輝は呆れるばかりだ。
信長「しかし俺が襲撃されても涼しい顔をしている光秀が『少し』慌てていたように見えたが?」
光秀「信長様の気のせいでしょう。
じゃじゃ馬の結鈴が何かやらかしたのだろうとは思いましたが」
信長「ほう…?」
結鈴と舞は言い合いに夢中で信長と光秀の会話を聞いていない。
信長が愉快だというように緋色の瞳を光らせた。
信長「まあ、良い。結鈴、あとは絆創膏とやらでしっかり傷を覆ってもらえよ?」
出ていこうとする信長を結鈴が引き留めた。