第67章 里山での暮らし
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信長「どうした、転んだのか」
港町から帰ってきたところのようで、手には風呂敷包みを持っている。
信長はそれを地面に置き、結鈴の足を見た。
信長「随分と派手にやったものだ。謙信が見たら大騒ぎだな」
信長が笑っても結鈴は涙をポロポロこぼすだけだ。
信長「来い。謙信が帰ってくる前に手当てを終わらせるぞ」
風呂敷包みを結鈴に持たせると、結鈴をヒョイと抱き上げた。
結鈴「わっ!?どこに行くの?信長様」
結鈴は信長とあまり話したことがなかった。
声が低く、威厳のある信長は結鈴にとってどこか近寄りがたい人物だったからだ。
龍輝が信長に絡んでいるのを見ると、結鈴は密かにハラハラしていた。
信長は舞の家に向かい、戸を開けて中にあがりこんだ。
「入るぞ」
すぐに舞が姿を現し、顔をゆがめた。
「信長様!?結鈴、あぁ、痛そうだね。
傷を洗うお水をもってきます。
あ、そうだ、龍輝―!あれ、龍輝どこ?結鈴の着物の着替えを持ってきて欲しいんだけど!」
龍輝「えー?どこ?」
「いつもと同じとこだよ」
二人が遠くでバタバタ動いている。
舞達を待つ間、信長は結鈴を座らせ、草履を脱がせた。
信長「これに懲りたら足袋を履け。じゃじゃ馬は母にそっくりだな」
結鈴「ママも足袋履かなかったの?」
信長「足袋は履いていたが。着物で走り回り、よく俺の部下に怒られていたぞ」
結鈴「えー?ママが?」
自分の知らない母。
それを知っている信長に、結鈴は興味を持った。
薄茶の丸い目がクルンと輝いた。