第67章 里山での暮らし
「ち、違います!もともと私は部屋でじっとしている人間ではありませんから!
働くことに何の苦もありません。
謙信様だって地元の子達に剣術や文字の読み書きを教えて収入を得ているでしょう?甲斐性無しなんかじゃありませんよ」
謙信「まだ舞達を養う程稼いではいない」
(生活に困らない程度に働いてくれているのに…)
それでは謙信様の気が済まないらしい。
「充分ですよ。こうして皆と助け合って暮らしていきましょう?
私だって針子の仕事、楽しんでいますし」
何度か話し合いを重ね、しばらくこの里山に住もうということになった。
蝦夷の地にも土地を治める大名が存在するし、数が少ないとはいえ武士も居る。
港町に住めば、どうしても目立ってしまうこのメンバーは目を付けられる可能性があった。
時の神の力がいつ、どんな時にはたらくのかはわからない。
30年後とはいえ、歴史を変える可能性が大きい政治や戦には関わらないと決め、大名・武士との接触を極力避けることにした。
海を渡り本州に行こうとする人は誰もいなかった。
今も激しく動いているだろう世の流れに、完全に背を向けている皆に、時々胸が痛んだ。
――――
謙信様は針仕事用の机に様々な布が置いてあるのを見て頷いてくれたけど、憂いの表情は晴れなかった。
謙信「必要に迫られて針仕事をするのではなく、空いた時間にゆっくりと作りたい物を作って過ごして欲しいのだ。
今舞は作りたい物を作っているのではなく、売れそうなものを作っているのだろう?」
「それはそうですけど…。でも使ってくれる人を想像すると何を作っていても楽しいものです。気にしないでください」
謙信「それならいいが……」
何不自由なく暮らして欲しいって思っている謙信様にとって、何を言っても憂いはとれない。
それに謙信様にはもうひとつ憂いがある。