第67章 里山での暮らし
(姫目線)
雪に閉ざされていた世界が春の日差しを受けて輝き強め始めた頃……
謙信「舞…その着物は…」
先に起きて朝稽古を済ませてきた謙信様が目を瞠った。
「ふふ、似合いますか?そろそろこの着物を着ても良い季節だと思いまして」
今日身に着けている着物は謙信様が贈ってくれた反物で作ったものだ。
梅の柄が入って、柄に隠れるように三羽の兎が遊んでいる。
仕立てたものの現代では着てみせる機会がなかったので、この季節がくるのを密かに心待ちにしていた。
謙信「綺麗だ、よく似合っている。立ち上がってもっと見せてくれ」
「ふふ、はい」
立ち上がって背面や袖を見せた。
「雪が溶けはじめたら畑を始める準備をすると皆が言っていたでしょう?
お手伝いをしたいですし、綺麗な着物を着る時間もなくなると思いますので今のうちに…」
背後から謙信様の腕が回り、胸の前で組まれた。
うなじに羽のような口づけが降りてきた。
「あ…」
謙信「お前には苦労ばかりかけてすまぬ。畑も家の仕事も皆で分担するように話はつけてあるが、本来ならば…部屋から一歩も出したくない。
美しい着物を着せ、選びぬいた調度品に囲まれ、日々ぬくぬくと過ごし、俺の帰りを待つ。そんな生活をさせるはずが…」
かさついて、ところどころ赤切れている手をさすられた。
謙信「妻をこのように働かせるとは、俺は甲斐性なしだ」
掠れた声は悔しさを含んでいた。