第4章 看病二日目 効果のない線引
少々腑に落ちないながらも、洗濯をするために立ちあがった。
昨日は忙しくてできなかったから今日は二日分やらなくてはいけない。
気合をいれたものの、どこを見回しても洗濯物はない。
「謙信様、お洗濯をしようと思ったのですが洗濯物はどこでしょうか?」
謙信「それなら他の者に任せた」
「……?どなたに頼んだのですか?」
謙信「安土には常に俺の配下が潜んでいる。その者に頼んだ」
(う、そんな秘密をサラリと言われるとどんな顔すればいいの)
謙信様は書状に落としていた目をあげて、こちらを一瞥した。
謙信「おあいこだ。信長と豊臣は一昨夜から留守で、伊達と徳川は自領に戻っている。
明智は数日前に安土を出たという知らせを受けている。
ということは城には石田三成しか居ないのだろう?」
途端に二色の瞳に危険な光が宿った。
マスクで見えないけど冷たい笑みが浮かびあがっているだろう。
戦好きといわれる片鱗を目の当たりにして、背筋に悪寒がはしった。
「あ…」
それは昨日の私の言葉だった。
そこから導き出される答えは『城が手薄になっている』ということだ。
それを言い当てられ青ざめる。
謙信「もっと警戒心を持て。
お前はそう思っていないのだろうが、安土の人間にとって俺は敵だぞ?
まぁ、今は安土とやり合うつもりはないから安心しろ」
そう言って書状に目を落とした謙信様はいつも通りだ。
「……はい」
不注意で安土の皆を危機にさらすところだった。
もし謙信様ではない他の武将だったなら今がチャンスと城を攻めていただろう。
(情けないな。もう少ししっかりしないと、頭、冷やしてこよう)
水甕には水がいっぱいはいっているのに、水汲み用の桶を持って外に出たのだった。