第4章 看病二日目 効果のない線引
(姫目線)
朝餉をとり終わらないうちに佐助君の熱は上がり始めた。
佐助君はそれでもご飯を完食してくれて、滋養の薬を飲むとすぐ眠ってしまった。
(あの家康特製のにがい薬を嬉しそうに飲むんだもん。
佐助君の家康愛はすごいなぁ)
薬の味を思い出して身震いする。
朝餉の片づけを追えて、簡単に部屋の掃除をしていると、謙信様は囲炉裏と火鉢の灰を綺麗にしてくれていた。
正直、灰の処理はしたことがなかったのでとても助かる。
「謙信様、いろいろ手伝ってくださってありがとうございました」
謙信「かまわん、暇つぶしだ」
素っ気ない返しも大分慣れてきた。
言葉は素っ気ないけど、行動は優しさや気遣いで溢れていることもわかってきた。
「そういえばマスクを仕上げてきました。試しにつけてもらえますか?」
昨夜作っておいたものを謙信様に差し出す。
謙信様は慣れない手つきでそれをつけた。
「大きさは大丈夫そうですね。紐の長さはどうですか?」
謙信「問題ない。これをずっとしていれば良いのか?」
「はい。佐助君の熱が下がって数日たつまではつけておいた方が良いと思います。
熱が下がってからも数日は感染力がありますので…」
謙信様は仕方ないという風に息をついている。
謙信「俺が病で倒れるわけにはいかん。致し方ない」
端正な顔立ちが隠れて残念と思う反面、綺麗な二色の瞳が強調されて見とれてしまう。
「多めに作ったのでお好きな時に取り換えてくださいね」
はい、と作ってきたマスクを全部謙信様に渡した。
謙信「この布はお前が選んだのか?」
謙信様が上から数枚手にとり裏表を返して眺めた。
「はい。針子部屋にあった布の中から謙信様に似合いそうなものを幾つか選びました。
お気に召さなかったら、作り直します」
謙信「良い、俺はあまりこだわりがない」
「そうですか…?」
謙信様の着物や袴、羽織は素材の良さはもちろん色や柄など、どれを見てもこだわりがあるように見えるのに。