第4章 看病二日目 効果のない線引
(謙信目線)
案の定、長屋を出てすぐの通りを舞がフラフラした足取りで歩いていた。
荷物の重みで下ばかり見ているせいで俺に気づく様子はない。
周辺の気配を探り、問題なしと判断して舞に話しかける。
予想以上に驚いた顔をして、周囲を心配するようにキョロキョロし始めた。
「お、おはようございます。どうしたんですか?佐助君は?」
病人の佐助を心配したのだろうが、開口一番に佐助の名を出されて些かむっときた。
(何故むっとする必要がある…)
些細な気の乱れを無視して会話を続けた。
長居は無用だ。人に見られぬうちに行かねばならない。
謙信「佐助は今しがた目を覚ましたところだ。体を清め、着替えている頃だろう。
安心しろ、周囲に怪しい者はいない」
「は、はあ」
なんとも抜けた返事をする女から荷物を取り上げ、歩き出す。
怪しい気配はないが、舞のためにも二人で居るところを見られない方が良い。
「あ、え?謙信様、待ってください」
引き留める声を無視して歩き続ける。
二人並んで歩けぬことが妙に引っかかった。