第4章 看病二日目 効果のない線引
「謙信様、佐助君、おはようございます。
今日もよろしくお願いします」
佐助「おはよう。謙信様と途中で会えて良かったね。凄い荷物だ。
君が城から食器類を借りてくるって言っていたからこうなるんじゃないかと心配してたんだ………謙信様が」
「え…?」
佐助君の言葉に思わず謙信様を見る。
謙信「佐助、俺は一言もそんなことは言っていない。
体が鈍って仕方がないから外を歩いてくると言ったはずだ。そうしたら、たまたまこの女が歩いてきただけだ」
佐助「そういうことにしておきます」
佐助君が意味ありげにこちらを見たので、ひとつ頷いてみせた。
「ふふ、謙信様がお散歩に出られている時にたまたま会えて良かったです。
とても助かりました、ありがとうございます」
謙信「……」
もう話は終わりだと言いたげに、謙信様は手元の書簡に目を通している。
私と佐助君はその様子を微笑ましく見守った。
「佐助君、具合はどう?」
近づいて顔色を見ると頬が少し上気している。
佐助「昨夜また高熱がでて、解熱剤を飲んだ。
そろそろ薬が切れる頃だから熱が上がってくると思う」
「そっか、じゃあ熱が上がる前に朝餉を食べちゃおう!急いで作るから待っててね」
土間におりようとして、かまどの上で羽釜がブクブクと音を立てているのに気が付く。
(この匂いはご飯…だよね。佐助君?)
振り返って佐助君を見ると目が合った。
佐助君が無言で謙信様を見た。
(え!?謙信様がやってくれたの?)
佐助君がうんうんと頷いた。
着物の袖をまくってお米を研いでいる姿を想像できない。
意外過ぎる一面に驚きながら、謙信様にお礼を告げた。
「謙信様、ありがとうございます。すぐ作りますから待っていてくださいね」
謙信「火傷しないようにしろ」
「はい」
朝から謙信様の優しさを垣間見て胸がざわついた。
(ああ、どうしたら良いんだろう。謙信様を知れば知るほど…)
表情を隠すように謙信様に背を向けて襷を掛けた。
炊き上がりが近そうな音が釜から聞こえてくる。なんでもない普通のご飯の香りなのに、今朝は一段と良い香りに感じた。
私は包丁とまな板をとり出しながら切ないため息をついた。