第4章 看病二日目 効果のない線引
(姫目線)
どんよりとした雲が空を埋め尽くし、身支度をする部屋の中は薄暗い。
スッキリしない気分…、と普段なら思うところだ。
でもこれから謙信様との時間が待っていると思うと、気持ちがソワソワと浮き立った。
いつもより早めに朝餉を済ませ、厨から使っていない古い鍋や食器をいくつか借りて城を出た。
「お、重い」
城下で買い足した食材を全部風呂敷に包んで背負い、手に持った荷物からはカチャカチャと食器やお鍋のこすれる音がする。
早い時間帯なので人目は少ないけれどちょっと恥ずかしい。
人通りが少ないうちにと長屋に足を向ける。
??「…おい」
荷物が重たくて下ばかり向いて歩いていると、見慣れた袴の色が見えた。
そろそろと顔を上げると案の定謙信様が立っていた。
「おはようございます。どうしたんですか?佐助君は?」
謙信様があまりにも堂々と立っていたので、こちらの方が心配になってしまう。
護衛は居ないと思うけど、と周囲を見渡す。
謙信「佐助は今しがた目を覚ましたところだ。体を清め、着替えている頃だろう。
安心しろ、周囲に怪しい者はいない」
「は、はあ」
(それはわかったけど、こんな早朝からお出かけかな?)
首をかしげていると謙信様は無言で私の荷物を取り上げ、こちらに背をむけてサッサと歩き出した。
「あ、え?謙信様、待ってください」
置いて行かれそうな雰囲気に、慌てて追いかける。
背中の荷物だけになったので身軽だ。
(もしかして出かけようとしたんじゃなくて、私を迎えに来てくださったのかな)
戸を開けて中に入った時には謙信様は既に囲炉裏の傍に座っていて、佐助君が体を起こして出迎えてくれた。