第62章 里山に住まう
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里山に移り住んできてから数日後。
慌ただしい冬支度は朝から晩まで続いていた。
働きっぱなしの皆にお腹いっぱいになってもらいたいと、私は蘭丸君と一緒に港町に足を延ばした。
早朝だというのに市には活気があり、獲れたての海の幸がたくさん並んでいた。
他にも干した青菜や柿、生活必需品なども売られていた
「わぁ、思ったより大きな町!結構近くなんだね。
あっ、防寒具がある!あ、あっちに駕籠売りが…ザルが欲しいなぁ。
布の切れ端も売ってるんだぁ。制覇するには時間がかかりそう…」
蘭丸「舞様、全部制覇しなくていいんだからね」
蘭丸君が吹き出した。
蘭丸「今日は食料と必需品を買いにきたんでしょ!
俺、下見してあるからお店の場所わかるんだ」
「わわっ!?まず、塩と味噌と醤油とお米と野菜類と、あとお箸も…」
蘭丸君に手を引かれて走り出す。
蘭丸「はいはい♪お任せあれ、舞様っ!」
「ふふ、頼もしいなぁ、蘭丸君」
どこか影がある蘭丸君だけど、今はとても楽しそうだ。
「蘭丸君はこういう場所好きなの?」
蘭丸「ん?そうだね、皆が楽しそうにしているのを見るのは好きだよ。
それに新しく知り合いができるのも嬉しいんだ」
町人「あら、蘭丸君じゃない。
良い昆布が入ってるよ」
乾物屋のおばさんが話しかけてきて、乾燥させた昆布、シイタケ、かんぴょうなどを勧めてくれた。お店の奥には乾燥させた豆類も見えた。
(保存できそうなものがいっぱい)
真冬になるとこの市も開催されなくなるというので、今の内に手に入るものは手に入れておきたい。
「あ、お料理に使いたいっ」
蘭丸「はーい、じゃあこのお店から買い物しようか」
通貨がなくても物々交換で買い物ができるので、現代から持ってきた布類で小物を作って、お米や野菜、魚の干物、冬物の着物などと交換した。
作った小物がなくなってからは手持ちの通貨でなんとかなった。
蘭丸君が居ると交渉が上手くすすんでとても助かる。
市場のおばあちゃんのアドバイスで、大量の野菜を買い込んで漬物を幾種類か漬けこんだ。
小魚と野菜、コメを漬けこむ保存食も教わり、冬に備えた。
蓄えという蓄えはなかったけれど、ここにいる皆にひもじい想いだけはさせたくなかった。