第62章 里山に住まう
「私、謙信様と一緒になれて幸せなんです」
光秀「そうか」
「謙信様との間に子供もできて、結鈴も龍輝も宝物です」
光秀「ああ、可愛いな、あの二人は」
「こんな、何もない場所でも、謙信様と子供達が居れば幸せなんです」
光秀「…そうか」
一言一言に相槌をうってくれる光秀さんの手をきゅっと握った。
光秀「っ」
予想外だったのか、光秀さんの手がぴくっと動いた。
大きくて、優しくて、私が困った時はいつも支えてくれた手だ。
安土に居た頃の記憶が蘇った。
現代を懐かしんで寂しくなった夜は、いつの間にか現れて何も言わずに傍に居てくれた。
戦の怖さを目の辺りにして怯えていた時は励ますように背を撫でてくれた。
慣れない宴の席で疲れていたら、さりげなく連れ出してくれた。
息ができなくて苦しかった時に、しっかり手を握ってくれた。
こぼれそうでこぼれない涙が、目に溜まって視界をユラユラと歪ませた。
「あなたが好きだったんです、光秀さん。
今更ですけど、好きだったんですっ」
光秀「っ」
「気付いていなかったんです、最近まで。
謙信様が気付かせてくれたんです。私が光秀さんと接する時の態度を見て…」
光秀「……」
光秀さんは何も言わなかった。
きっと今更何を言ってるんだ、と呆れているに違いない。
光秀さんだって、とっくの昔に私のことなんて忘れていただろうし。