第62章 里山に住まう
佐助「このくらい忍者の基礎の基礎だ。大丈夫だよ。
信玄様は日曜大工が好きなんだ。あとで相談にのってもらおう」
佐助君の視線が、私が拭いていた戸に向けられた。
この戸に限らず、家の中には修繕箇所がたくさんある。
「良かった、信玄様が居てくれて…。
でも皆偉い人達なのに、なんだか頼むのが申し訳ない気がするよ」
外で働いている信長様達の声が聞こえてくる。
佐助「気にする必要はないよ。
さっき見てきたけど、皆それなりに楽しんでいるみたいだったよ」
「こう…なんていうか、庶民的な生活が楽しいって感じなのかな?」
佐助君がくすりと笑った。
佐助「そうかもしれない。政から一切離れて、生活のためだけに動き回るっていう経験が楽しいのかもね。
俺としても安土勢と春日山勢が入り混じって共同生活を始めるなんて、感動ものだ」
「ふふ、家康も居たら佐助君はもっとエンジョイできるのにね」
佐助「うん、きっと家康さんにつきまとうストーカーになると思う」
「忍者にストーカーされたら家康も逃げられないだろうね…」
すんごい迷惑そうな顔で『あっち行って』って言いそうだ。
想像してしまって笑いがこみあげてきた。
「じゃあ私は皆の部屋を掃除してくるね」
佐助「ああ、俺も屋根の修復にはいるよ。またね」
私は水桶と雑巾を持って立ち上がり、佐助君は足音をさせずに外に出ていった。