第62章 里山に住まう
「佐助君、この空き家って勝手に使ってよかったの?
所有者に怒られたりしない?」
皆が外で薪作りに励んでいる頃、私と佐助君は家の中を掃除していた。
佐助君は長年使っていなかったこの家の強度確認をしている。梁に上ってあちこち点検しながら拭き掃除もしてくれて大助かりだ。
佐助君が居なければ『梁の埃を拭く』なんて芸当はできない。
佐助君は雑巾の汚くなった面を内側に折り返しながら言った。
佐助「大丈夫、ここの里山は10年前に人の手が離れたらしい。
ここに住んでいた人たちは港町に住んでいるらしいし、もう戻って来ることはないと思うよ。
それにこの時代、空き家を見つけた人がそのままそこに住むっていうのはザラにある話だ」
「そうなんだ。それなら良かった。
追い出されたり、怒られたりしたらやだなぁって思ってさ」
重い引き戸を引っ張るようにして開け、雑巾がけをしていく。
(滑りが悪いな)
昔は漆が塗ってあっただろう戸は、ところどころに漆の名残があるだけで、雑巾で拭くとささくれた感触が伝わってきた。
(うーん、戸は頑丈そうで良いけど、余裕ができたらどうにかしないと怪我しそう)
現代に居た頃、DIYの知識をもっと仕入れておけばよかった。
まさかこんな暮らしになると思っていなかったから、ノータッチできてしまった。
佐助「かなり古い建物ではあるけど、雪対策で頑丈に作られているおかげでまだ現役だ。
ここにずっと住むかまだわからないけど、もし長く住むなら色々改修すれば住み心地はいいはずだ」
梁から飛び降りて、佐助君が音もなく降り立った。
「わっ、びっくりした。怪我しないでね?」
降り立つ時の重力はどうなっているんだろう?
足の裏にじーんとこないのかな。