第60章 姫の想い人
「光秀さんとのことで謙信様にお話していないことがあるんです。
でもそれは私の胸の内に仕舞っておきたいことで、でも…秘密を持っているからと言って謙信様を愛する気持ちは何も変わらないって、そう思っていたんです。
勝手を言っているとわかっていますが、お許しくださいますか?」
謙信様は不機嫌そうな顔をしていたけど、ひとつ頷いてくれた。
謙信「馬鹿正直な女だ。だが舞らしいとも思う」
表情に呆れが含まれていたけれど、さっきのような怒りはなかった。
謙信「真正面からそう言われて『駄目だ』などと言ったら、懐の浅さをさらけ出すようで憚れる。それを狙ったわけではなかろうが、したたかな女だ」
「そ、そんな悪い女みたいな言い方…」
謙信「今回の件については舞は悪女の所業だ」
ズバリ言われて言葉を失う。
謙信「だが言葉に偽りはないとわかる。
舞が秘密を持っていようと俺を愛してくれていることもわかる。
お前のことなら何もかも全て知りたいと思うが、夫だからと言って一人の人間の全てを暴くというのは違う…」
謙信様は私に頬を摺り寄せた。
謙信「俺を愛してくれているのなら良い。
秘密のひとつ、ふたつ抱えていようと、それを認め、許すのも愛情のうちだ。
お前は俺のものだが、俺自身ではない。
一人の人間として、考え、選び、生きている。生きる過程において俺が知らぬこと、知らせたくないことができても仕方のないことだ」
「謙信様……」