第60章 姫の想い人
謙信「わだかまりはまだあるが、自覚がなかったという言い分を聞いてやろう。
お前が見境なく男に媚を売る女ではないと信じてのことだ」
追及が終わった後に謙信様はそう言って、膝の上に私を乗せたまま長い長い口づけをしてきた。
息苦しくなって顔をそらすと、耳たぶ、頬に謙信様の鼻先が触れて薄い唇が追いかけてくる。
「ん……」
唇を割り、舌が口内に侵入してきた。
上下の歯列を辿るように舌が行き来して、舌を絡めとられる。
浮気…と言えるのかわからないけど、光秀さんに少しでも気をとられてしまった。
秘めやかな想いに気付いたのはきっと謙信様が私をよく見ていたからだ。
(ごめんなさい)
私だったら、謙信様が他の人に目を向けるなんて絶対に嫌だ。
自分がされて嫌なことを、謙信様にしてしまったなんて…。
(それに…)
『明智は、舞のことを好いていたのではないのか』
あの問いかけに対して、私は『はい』とも『いいえ』とも言わなかった。
光秀さんの私への気持ちを知っていたのに、答えなかった。
(ごめんなさい、謙信様)
櫛を貰ったことも、
言葉がなくとも目が語っていた光秀さんの想いも、
凄く嬉しくて、綺麗な思い出で…そのまま胸に仕舞っておきたかった。
光秀さんのことが好きだとか、嫌いだとかそういう次元の話ではなくて、うまく説明できないけど『誰にも知られず仕舞っておきたいこと』だった。
自分勝手は自覚している。
(秘密を持っているからといって、謙信様との距離があくわけじゃない)
変わらず謙信様を愛している。
謙信「口づけをしながら、何を考えている…?」
ちゅ…
唇が離れ、濡れた唇から唾液が熱を奪いながら乾いていく。
名残惜しいと思いながら、謙信様を真っ直ぐ見返した。