第60章 姫の想い人
私を尊重してくれる言葉にびっくりした。
現代に来てくれた頃の全てを奪いつくす勢いはなくなり、懐深くそう言ってくれた。
多少悔しそうではあったけど。
「ありがとうございます。謙信様…」
果たして私が同じ状況に晒されたら、今の謙信様のように言えるだろうか…。
謙信様に擦り寄り目を閉じた。
謙信「…何を笑っている?」
いつの間にか笑みが浮かんでいたみたいだ。
「いえ、私も同じ立場になった時、なんて言うんだろうなって考えたら…やっぱり同じことを言う気がしたので笑ってしまったんです。
謙信様の愛情が私に向けられている限り、秘密の二つや三つ、四つくらい許しちゃうなって」
途端に謙信様は顔をしかめた。
謙信「お前の愛情に寄りかかり、そのように三つも四つも秘密など持つはずがなかろう。
だがこうして諍い、許し合える仲というのも良いものだ。
秘密があろうと舞との仲が深まった気になる…」
「ん…」
(ほんとだ…。前よりも謙信様の気持ちを近くに感じる…)
喧嘩をしたこともなかったし、こうして本気で怒られることもなかった。
正直な意見をぶつけ、認め、許してくれて…より、謙信様が愛しいと感じた。
「謙信様、傷つけてごめんなさい。愛しています」
ギュッと抱きつくと謙信様のため息が漏れた。
謙信「お前と結鈴の『大好き』と『愛している』にはかなわん。
愛しすぎて、何もかも許したくなる」
「…………ふふ」
顔が見えないけど、きっと眉が下がっているんだろうなと想像できた。
謙信「笑っている余裕などないぞ」
「んっ!?」
突然唇を塞がれ、目を見開く。
謙信「ふっ、また目を開けているな」
「だからっ!突然すぎるんですっ!」
静かな林に、謙信様の笑い声と私の抗議の声が響き渡り、驚いた小鳥たちが羽を羽ばたかせ、飛んでいった。