第60章 姫の想い人
謙信「本当か…?お前の心はまだ俺にあるのか」
目が合った謙信様は怒っているどころか、こう言ってはなんだけど怯えているように見えた。
「まだあるのか、だなんて。最初から私の心はあなたのものです。
その…無意識に安土に居た頃のように光秀さんと接していたのは申し訳ないと思いますが、謙信様はただ一人の、かけがえのない人です。それはこの先ずっと変わらないです」
謙信様の表情は変わらない。まだ不安そうにしている。
謙信「舞が俺以外の男に気をとられているのを見た時、明智はお前の恩人であるというのに、憎くて斬り殺しそうだった。
俺と出会わなければ舞は明智と一緒になっていたのかと思うと、あらぬ想像とはいえ、憎くてたまらない」
謙信様の手が伸びてきて、身体を捕らえられた。
ひき寄せられ、また膝の上に乗せられた。
謙信「明智に…近寄るな。俺だけを愛してくれ」
硬い胸に引き寄せられ、謙信様の表情は伺えない。
苦しんでいることだけは声色から痛いほどよくわかった。
「はい、なるべく。光秀さんには他の人と同じように振舞います。
私は謙信様の妻です。あなただけを愛します」
そういうと謙信様はようやく安堵してくれて、心地良い強さで抱きしめてくれた。