第60章 姫の想い人
「謙信様っ………、ごめんなさい。
自分の気持ちに気付いていなかったんです。惹かれていたのかもしれません。
そしてっ、はぁ、気づかないまま再会し、同じように光秀さんと接していました。
だからあなたをこんなに不安にさせてしまって…ごめんなさい!!」
呼吸が落ち着くのなんか待っていられなかった。
一秒でも早く伝えたかった。
「光秀さんに惹かれていたのが事実でも、私はあの時あなたと出会い、知り合い、触れて……はぁ、あなたが愛しいと…思ったんです!
その気持ちだけは嘘偽りない気持ちです。今だって謙信様と、謙信様との子供が居て、幸せなんです。
大好きで愛しくて、あなたの代わりになる人なんて居ない。
謙信様と離れていた10日間は…はぁ、半身を失くしたような気持ちでしたっ」
地面についていた手を、謙信様の両手に伸ばし…掴んだ。
「あなたが居ない日など、もう考えられません。
私だって謙信様が離れていったらと思うと、もう……生きていけないんです」
(愛想を尽かされたらどうしよう)
他の人に気をとられた妻なんか、謙信様は許してくれないだろう。
唯一の人を失いそうになって涙が出た。
「ごめんなさいっ、自分の気持ちなのに、わかってないなんて…。
謙信様を愛しています。信じてください。あなたのことを失いたくないっ」
謙信「こっちを向け」
俯いていた顔を上向けにされた。
しゃくりあげながらのろのろと視線をあげる。
(どうしよう、もう嫌いだって言われたら)
そんなの、心臓が止まって死ぬんじゃないかと思う。