第60章 姫の想い人
「光秀さんに何の感情もないと言えば、
……う、そです、ね…。
謙信様に言われて気が付きました」
自分で驚き、言葉がたどたどしくなった。
謙信「っ」
端正な顔が歪んだ。
「でも…
謙信「言うなっ!!」
謙信様が声を荒げたのを聞いたのは2度目だった。
現代で再会して、頬を叩いてきた時よりも激しい声だった。
「っ」
ビクッと身体が跳ね、強張った。
怒る理由は聞かなくてもわかる。それもこれも私が悪い。
(謙信様に言わないと)
自分の気持ちに気付いていなくてごめんなさいって。
言われて初めて気づいた。
安土に居た頃、私はきっと光秀さんを…………
(でも…)
私が選んだのは謙信様だ。
唯一無二の人なんだって伝えないと。
恐るおそる謙信様と目を合わせた。
真っ青な顔をして、感情が渦巻いている。
怒るというよりも絶望、焦燥……悲哀。
「ご、ごめんなさい!謙信様、聞いて、ください」
謙信「っ、聞きたくない。お前を失うくらいならっ」
「んっ」
深い口づけをされ、同時に謙信様の片手が喉元を締めあげてきた。