第60章 姫の想い人
謙信「お前は明智と何かあるのか?
俺に触れさせないのは、あいつに気持ちが移ったからか?」
「え………?光秀さん?」
なんでここで光秀さんの名前が出てくるんだろう?
抵抗したのは外だったからで…。
困惑する私をよそに謙信様の目は濁り、ぎらついている。
謙信「その表情を見れば何もないのか。だが『まだ』何もないのではないのか?」
「?おっしゃる意味が…」
心なしか謙信様の顔色が悪い。
謙信「明智に惹かれていないと言い切れるか?
舞が安土に世話になっていた頃、明智はお前のことを好いていたのではないのか」
「………っ」
好きだとは言われていない。
ただ『お土産』に櫛を貰った。
男の人が櫛を贈るのは、この時代で重要な意味がある。
けど櫛を貰ったことだけは誰にも、たとえ謙信様にも言いたくなかった。
綺麗な…思い出だから。
綺麗すぎて誰にも触れられたくなかった。
(惹かれていた…か)
そう言われ自分の想いを改めてみつめ直した。
「……」
贈ってもらった美しい織紐に戸惑い、でも嬉しいと思った。
安土城の広間で呼吸困難になり、光秀さんの心音を聞いて妙に落ち着いたこともあった。
誰も居ない二人きりの広間で…抱きしめ合った。
(光秀さんに惹かれていた?私が?)
追及されて気づいた気持ち。
そういえば信玄様の後ろから歩いてきた姿に、密かに心臓が高鳴った。
(そうかもしれない…)
櫛を貰ったことで変に意識したとばかり思っていたけど、そうじゃなかったんだ。