第60章 姫の想い人
(姫目線)
謙信様が私と二人きりで話がしたいと、子供達を佐助君に預けて小屋を出た。
何も聞いていなかった私は面食らい『どうしたんですか?』と手を引かれるままに歩いてきた。
「お鍋を火にかけたままにしてきちゃったじゃないですか。急にどうしたんですか?」
謙信「煮立ったら誰か気づいてどうにかするだろう。それよりここに座れ」
謙信様は太い樫の木の下に座った。
ここと言ってポンと叩いたのは謙信様の膝の上だ。
「……はい」
謙信様を咎めていたくせに、嬉しくて頬が緩んだ。
再会してからというもの一つの部屋で共同生活しているので、謙信様に触れたくても触れられないでいた。
横を向いて腰をおろすと腕が回り、すっぽりと包まれた。
「謙信様だ……ふふ」
身を任せ、目を瞑ると謙信様の匂いがする。
胸いっぱいに吸い込んで、幸せのため息を吐いた。
謙信「俺が居ない間、信長と蘭丸に何もされなかったか?」
「もう、それ何回聞くんですか?何もなかったですよ。
夜は寒かったので近くで寝ましたが、それだけです」
謙信「…近くで寝ただけでも罪深いが、致し方なかったとしよう。
お前が風邪をひいては大変だからな」
文句を言いながらさりげない動作で着物の袷から手を入れてくる。
ギョッとして謙信様の手首を掴んだ。
「ちょっと、謙信様っ!?」
慌てて周囲を見渡した。
「こんな所で何するんですか!?」
謙信「…こんな所でしかお前に触れられないだろう?
他の男と寝食を共にしていたというだけで腸(はらわた)が煮えくり返っているというのに、ひとつも触れられない。気が狂いそうだ」
捕まえていた手を物ともせず、謙信様の手が侵入してきた。
襦袢越しに感じる手の感触に肌が熱をあげた。
「あっ」
外でこんなことをしたことがなくてさらに抵抗すると、謙信様の表情が途端に険しくなった。