第60章 姫の想い人
(謙信目線)
舞…
離れていかないでくれ
お前があいつと話しているのを見るだけで、胸が焼け付くようだ。
信玄や佐助が好意を示そうが舞は全く気付かない上に、男としてあまり意識していないようだった。
だから俺はどこか安心していたのだ。
だがこの間の夜、小屋の外で話していた舞と明智は、見ている者が胸を疼かせるような甘酸っぱい雰囲気を漂わせていた。
俺の目に狂いはない。
なのに舞は「久しぶりに光秀さんにあったら、見惚れてしまいました」という返答を寄こした。
嘘をついている様子はなかった。
その後の振舞いからも舞の心が俺を向いているのは確信があった。
気付いていない…いや、全く気付いていないわけではないのだろう。
だが気づかないふりをして、目をそらしているのかもしれない。
長屋で過ごした7日間。
俺が舞に恋情を抱いている事実に目を背けていた時のように。
舞…
お前は明智に惹かれているのではないのか。
いや、惹かれていたと言った方が正しいか。
安土に居た頃、お前は密かに明智を…………
それに気付き、平静でいられるわけがない
安土の連中に囲まれて過ごすお前を危惧していなかったわけではないが、まさか『特別』が居たとは…
お前の心は俺のものだというのに、他の男を住まわせて気付いていないふりをしているのか
舞らしくもない
俺が知っているお前は、自らの気持ちと真正面に向き合い、結論を導き出す
今のお前は俺の知る舞のようで、そうではない
そのまま気持ちに向き合わず、明智に流されたら……?
………
わかっているのか?
舞が俺の元を去ったら、俺は生きていけない…