第59章 それぞれの道
「信長様っ、私っ、秀吉さんに幸せになって欲しかったんです!
あんな寂しい辞世の句なんて……私が知っている秀吉さんは寂しい人なんかじゃなかったのに!
三成君だって、あんなに家康のことを尊敬していたのに戦って負けて、逃げて、打ち首になるなんて。
家康だって本気で三成君のこと嫌ってなかった。それどころかちゃんと認めるところは認めていました。
どうしても変わって欲しかった歴史だったのにっ!」
流れた涙がポタポタと地面に落ちた。
信長「個々でどう思っていようが対立の立場になるのはよくあることだ。
それにだ。時の神が居るとすれば、貴様がいくら変えようとしても変えられないのではないか?この俺がそうであったように…」
頭に乗せられた信長様の手がずしっと重みを増した気がした。
信長「貴様はどんな気持ちで俺を見ていた?
死ぬはずだった男を助けたと気づき何を考えた?」
「怖い、どうしようと思いました。思えばその時から歴史を変えることに対して恐怖を持ったような気がします。
しかしお傍で信長様を見ているうちに、本能寺で死んではいけなかった人だと思いました」
教科書で習った信長様とは大分違ったけど、この方が見つめる開かれた日ノ本を見てみたかった。
「躊躇いはずっとありましたが、信長様が治めた天下を見てみたいと。でも叶いませんでした」
教科書にはない未来を望み、安土の皆の役に立つために出来ることはなんでもやった。
しかし結果は無慈悲にも歴史通りとなった。
信長「そうか。貴様の期待に応えられないとは俺も精進が足りぬな」
「そんな、だってワームホールのせいで……」
信長「いいや、俺の技量の小ささだ。時の神を撥ね退ける力がなかっただけのこと。
だがな舞、秀吉と三成はまだ生きている。
書物の中では歴史上の人物として書かれているが、俺と貴様の中では生きている。
俺達が過ごしていた『あの時』を必死に戦い、生きている最中だ」
力強く光る赤い目に囚われた。