第59章 それぞれの道
――――
――
「……というわけで私が秀吉さんと三成君に言ったことは、何の役にも立たなかったなって落ち込んでいたんです。
もっと伝え方を変えていたら違う一生になっていたかもしれないのに……。
歴史を変えるのが怖くて仕方がなかったのに、変わってないことに落ち込むなんて馬鹿ですよね」
落ち込んでいた理由を信長様に話した。
ずーんと落ち込んでしまった気持ちは、容易に浮かびそうにない。
信長様は私の前にしゃがみこんだ。
その拍子にビロードの裏地がチラリと見えて、やっぱり素敵だな、なんて場違いなことを考えた。
信長「三成のことは知らなんだが、秀吉については同席していた。
秀吉は馬鹿ではない。俺の話を聞いた上で息子を家臣に託したのなら、それ相応の考えがあってのことだろう。
人はいくつもの岐路に立つ。その都度選ぶのは己自身。
秀吉が選んだ道を舞が気に病むことはない」
低い声で諭されると、重たい心が少し癒えるようだった。
でもまだ言葉を発せるほど回復はできず黙っていると、信長様が喉を震わせるようにして笑った。
信長「ふっ、あの晩、奇妙な話をしているとは思ったが、舞の思惑が秀吉の未来を案じてのことだったとはな」
からかうような口調につい唇がとがってしまう。
「……余計なことをとお思いですか?」
お互いしゃがんでいるけど信長様の方が目線は高い。
下から見上げるようにして見つめると、赤い瞳が穏やかに見つめ返してきた。
信長「俺の家臣を良かれと思い、導こうとしたのを余計だと思うわけがなかろう?
それにあの時貴様は虫の息だった。ろくに物も話せない病人が、頭をはたらかせ『仮の話』を持ち掛けたのだ。大儀であったな」
武骨な手が躊躇いがちに頭を撫でてくれた。
最近は謙信様の手前か、触れてこようとしなかったのに。
慎重に、優しく触れられると我慢していた涙がぽろっとこぼれた。