第59章 それぞれの道
「佐助君、何か知ってるの?」
佐助「実はこれを現代から持ってきたんだ。
俺達がワームホールに飛び込んだら、中身が変わるかと思って」
佐助君が懐から取り出したのは歴史書だった。
佐助「この本では謙信様と信玄様は姿をくらまして二度と戻らなかった、という歴史のままだ。
本能寺の変は1582年ではなく1584年に変わっていて、その後の出来事も数か月、数年のズレが生じているけど元の歴史通りなんだ。
江戸幕府ができてからはそのズレもなくなっている」
手慣れた手つきで佐助君はとあるページを開いた。
佐助「ここだ」
佐助君にしては少しぶっきらぼうな言い方をして、ある箇所を指差した。
本を受け取って読むと、大阪の戦が起こった年は記憶と違わず1614年、1615年で、幸村の最期の様子が書かれていた。
その話は以前教科書で読んだことがあった。
歴史に疎い私はそれが幸村の話だったなんて今まで忘れていた。
「幸村らしい、最期だね…」
『真田幸村』と書かれた文字を震える指でなぞった。
幸村のおかげで私は佐助君の500年越しのメッセージを受け取ることができた。
そのおかげで謙信様と再会し、今がある。
(お礼を言いたかったな…)
佐助「ワームホールが開くとわかった時は本当に時間がなくて、俺は幸村に挨拶もできずに飛び出してきたんだ。
今はそれをちょっと、いやかなり後悔してる」
「そっか、心残りだね」
佐助「ああ。幸村はすぐ戻って来ると信じてくれていただろうから、怒ってると思う」
(幸村が本気で怒ったとこ見たことないけど、怖いのかな)
信玄様に『甘いもん食いすぎです!』って怒鳴っている時は、心配の裏返しで怒っていただけで本気じゃなかった。
佐助君と同い年くらいだったろうに、この歴史書を読めば、信玄様より年を重ねて最期を迎えている。
「信玄様が元気になった姿を見せてあげたかったね」
佐助くんはコクンと頷いた。
これ以上幸村の話をするのは酷だと思い、歴史書を読ませてもらうことにした。
佐助君は『読めば舞さんも辛くなるけどいい?』と心配してくれたけど、腹を括って読むことにした。