第58章 時の神
小屋に入ると、各々身体を横にしているようだった。
行灯もないので本当に暗い。
ゴツ!ガン!
上り口のところで何かにぶつかった。
「いた!」
静かだった部屋が急に騒がしくなった。
蘭丸「大丈夫っ!?舞様」
信長「どうした?」
信玄「姫、怪我はないか?」
光秀「騒々しい小娘だな」
光秀さんの呆れた笑いの後に、甲高い声も…。
結鈴「ママー?」
龍輝「ケガしちゃった?」
人影が近寄ってきて、見ると佐助君だった。
佐助「大丈夫?謙信様と舞さんが寝る場所まで手を引くよ」
「夜目がきくんだもんね。ありがとう、佐助君」
手をとろうとして、謙信様の手に阻まれた。
謙信「………ならん。佐助、俺が誘導する」
佐助「はい」
佐助君が苦笑する気配がした。
なんだか申し訳ない。
「少しぶつけただけです。皆さん、お騒がせしてすみません。おやすみなさい」
謝ってから就寝の挨拶をすると、部屋の雰囲気が柔らかくなった。
寝転ぶと、先に寝ていた結鈴と龍輝がコロコロ転がってきて4人でピタリとくっついた。
龍輝「4人だね~」
結鈴「皆いっしょー」
「ふふっ、嬉しいね」
謙信「こら龍輝、間に入るな。舞と寝られないではないか」
龍輝「僕、久しぶりに会ったからパパの隣がいい」
謙信「……」
「謙信様」
謙信「?……っ」
龍輝を間に挟み、真っ暗な部屋で口づけを贈る。
切れ長の目が見開かれているのがなんとなくわかった。
(不意打ち作戦成功っ!)
「ふふ、おやすみなさい、謙信様」
謙信「おやすみ」
渋い顔で頭を撫でられた。
きっと触れたいのを我慢してくれたんだろう。
クスクス漏れてしまう笑い声に、龍輝も結鈴もつられてクスクス笑っている。
今夜は謙信様が居ない未来について話し合うはずだった。
寂しくて、辛くてどうしようもなかったのに……こうして、4人で眠りにつけるなんて。
(幸せな夜だなぁ)
クマに追いかけられ怖いお思いもしたけれど、諦めず走り続けて良かった。
謙信様との約束が私を強くしてくれた。
(思い悩むことはたくさんある。でも今は…目の前にある幸せを噛み締めよう)
謙信様を見て笑いかけたら笑い返してくれて、そのまま幸せな眠りについた。