第58章 時の神
信玄様にちょっかいを出された時にさえ見せなかった表情だ。
何か言おうとして、でも言い訳めいている気がして口を開けなかった。
なんだかドキドキしたのも、見惚れてしまったのも…事実だ。
(ちょっと意識しただけ…)
光秀さんが私を想ってくれたのは過去のことなのに。
妊娠していると知った時点で、私への想いは整理がついているはず。
(光秀さんは大人だもの。私のことなんて遠の昔に割り切ってるはず)
私が変に意識してしまっただけで、光秀さんは単に懐かしんでくれただけだ。
「すみません、謙信様。久しぶりに光秀さんに会ったら、改めて男前だなぁと見惚れていただけです」
謙信様のこめかみがピクリと動いた。
謙信「なに…?」
不穏な圧が増した謙信様は、出会った頃のように怖いと感じてしまった。
(怖い謙信様、久しぶりだ……)
「あの、特に意味はないですよ?信長様も、蘭丸君も人目を惹く容姿をしているじゃないですか。それと同じで…」
謙信「俺の前で他所(よそ)の男を褒めるとは良い度胸だ。他に目をやる余裕があるのなら、俺だけを見ていろ」
「近くにいるのに謙信様だけ見てるなんて無理ですよ!
でも見惚れたのは悪かったなと思います。ごめんなさい、謙信様」
謙信「先ほどから見ていれば、舞と安土の連中は想像していたよりも距離が近い。
世話になった連中だ。口をきくなとは言わんが、あまり見せつけてくれるな」
闇夜に謙信様の影が動き、首元に吐息を感じた。
じゅっ!
喉仏の柔らかい皮膚を強く吸われて、見なくてもキスマークがついたとわかった。
「謙信様!?あっ」
謙信様は次に、後ろ髪をかき上げてうなじを露わにするとそこにもキスマークをつけた。
うなじに吸い付き、痕がついたであろう場所を謙信様の舌がペロペロと舐めてくる。