第58章 時の神
佐助君が私の手をとった。
ギュっと握られた手が痛いくらい強く包まれた。
佐助君の視線が私を強く捕えた。
佐助「舞さん、それは違う。
これ以上時を乱すのはやめた方がいいんだ。
同じ人間が同時に一つの場所に存在するなんてありえない。
もしあの時の自分達が未来の俺達の姿を見た時、どんなことが起きるのか。
錯乱で済めば良いけど、時にまた新たな歪(ひずみ)を起こすかもしれない。
だから戻らない方がいいんだ。苦しまないで、君は醜くなんてないよ」
いつもの調子で佐助君は慰めてくれる。
佐助君は優しい。
あの時に戻って、誰かに頼んで過去の私達を引き留めるという方法もあるのに、それを口にしない。
口にしない=隠し事をすることで佐助君はさらに胸を痛めているはずだ。
これ以上佐助君の憂いを増やすくらいなら、自分の負の部分を認めてしまったほうがましだ。
かぶりを振って真っ直ぐに佐助君を見返す。
「だめだよ、佐助君。私はやっぱり醜いし、ずるい人間だよ。
全部投げうってしまえばできることがあるのに、しないんだもの」
きゅっと締め付けられる痛みを忘れない。
この痛みを戒めとして生きていこう。
佐助「舞さん……。君は真っすぐな人だな。
謙信様が惚れぬいているだけある」
佐助君が眩しそうに私を見て、そう言ってくれた。