第58章 時の神
そっと胸元に手をあてる。
罪悪感が私を責め立てる。
あの時あの場所に居なければ。
ワームホールに遭遇するの運命だったというのなら、この世に生を受けなければ…。
歴史を変えることはなかった。
この責め苦のような感情を、目の前の佐助君も感じているという。
「………一人じゃないんだね」
佐助君は力強く頷いた。
わかりにくくほころんだ表情が陽だまりのように胸を温めてくれた。
佐助「未知の領域に踏み込んでしまった代償は自分よりも、他人に与えた影響の方が大きい。俺達がこのまま生きていくことが正しいかわからないけど、この想いは忘れずに胸にしまっておこう。
辛くなったら言って。この気持ちは歴史を変えてしまった俺と舞さんだけが共有できるものだから」
「うん、ありがとう、佐助君」
お礼を言って視線を落とす。
(でも…)
私の力を使えば、本能寺跡でタイムスリップしたあの時に行けるかもしれない。
そこでタイムスリップを阻止してしまえば……想像して胸がすっと冷えた。
佐助「舞さん。本能寺跡の『あの時』に行くのはやめよう。
歴史は変わらずにすむかもしれないけれど、今、ここにいる俺達、謙信様達や結鈴ちゃん、龍輝君の存在が消えてなくなるかもしれない。
パラレルワールドのようになれば存在は維持できるかもしれないけど、不確実だ」
佐助君は見事に私の考えを読んだ。
もしかしたら佐助君も同じことを考えたのかもしれない。そんな気がした。
(それなら佐助君も私が苦しんでいる気持ちをわかってくれるかな)
膝の腕に乗せた両手をきゅっと握った。
「佐助君、でもそれってさ、それって……
人の人生を変えておきながら、私を愛してくれる謙信様を失いたくないって、子供達を失いたくないって、自分の人生を変えたくないって言っているようで、凄く、すごく……自分が醜い……っ」
自分の汚い部分から目を背けられず、感情が大きく揺れた。