第58章 時の神
歴史通り命を落とすべきだったとは思わない。
生きてくれて良かったと心から思うけど、生きのびた先が何も見えないのが申し訳ないと思う。
国のため、日の本のためにとあれほど身を削っていた生きてきた人達が、全て失くして命だけ助かった。
目標をなくし、どんなにか無念だろう。
それに、これからは歴史を修正する時の神の力を気にしながら生きていかなくてはならない。
それもどんな行動をすれば力がはたらくのか、よくわからないのが現状だ。
佐助「舞さん、時を越えて歴史を変えてしまったのは俺も同じだ。
むしろワームホールの研究をして、事情を知りながら本能寺跡に行った俺のほうが責任は重い」
そんなことない、と言おうとしたけど佐助君の纏う重い空気に口は挟めなかった。
佐助「ワームホールが開く可能性を知っていたのなら、君が本能寺跡に居たのを見た時点ですぐに遠ざけるべきだったんだ。
なのに俺はそうしなかった。君があまりにも……」
私は納得してうんうんと相槌をうった。
「あまりにも熱心に本能寺跡の石碑を見ていたから声を掛けづらかったんだよね」
熱心に石碑を眺めている赤の他人に『逃げてください』なんて言いにくかっただろうと、察する。
けれど佐助君が『ん?』という表情をして言葉を切った。
「?」
(違うのかな)
佐助「ちょっと違うけど、うん、そこは重要じゃない。
とにかく君を遠ざけなかったのは俺自身の失態だ。
いや、でもこうして出会えて知りあえたのに『失態』とは思いたくないな。
ちょっと待って、考えればもう少し良い表現があるはずだ」
「さ、佐助君脱線してるよ。えっと、そう責任がどうとかっていう話だけど、そんなことないよ。
佐助君のせいだなんて一度も考えたことないよ」
佐助「でも……そうだな。過去はもう変えられない。
どちらが責任が重いかなんていう話をしたいわけじゃなかったんだ。
歴史を変えてしまったのは君だけじゃないっていう事を言いたかったんだ」
「佐助君……」
佐助「舞さんが現在進行形で悩んでいることを、俺も同様に悩んでいる。
時の流れを乱し、人の生き方を変えてしまったこと……。
同じ思いを共有できる人間がここに居るって、どうか忘れないで欲しい」