第58章 時の神
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「はい、できあがり」
髪のアレンジの仕上げに織紐をきゅっと結ぶ。
膝上には身体を清めた結鈴が座っている。編みこまれた髪を確かめるとすくっと立ち上がった。
結鈴「ねえ、みつひでさんに見せてきても良い?」
「駄目よ。ほら、信長様とお話ししてるでしょう?
もう少ししてから行きなさい」
結鈴が面白くなさそうな顔をする。
謙信様は『後日に』と言ったけど、この小屋以外に行くところもなく、皆自然にその場にとどまり、今後の身の振り方について話し合いが続いていた。
佐助君に元の歴史を尋ねたり、一人考えこんでいたりと様々だ。
アレンジにつかった道具を片付けながら結鈴に聞いてみる。
「そんなに光秀さんが好きなの?」
現代に居た頃から光秀さん人形を可愛がっていたけど、ワームホールに光秀さんを引き込むほど会いたいと思っていたなんて知らなかった。
結鈴「うん!ママ、みつひでさんって凄くイケメンだね!
ママのお話を聞いた時から会ってみたかったんだけど、本物のみつひでさんはとってもかっこよくて、優しいし、結鈴、みつひでさんが大好き。
クマをね、銃で撃った時なんてすごくすごーーくかっこよかったんだから!」
まん丸の瞳がキラッキラに輝いている。
「フフ、そっかー」
娘の口からイケメンという単語が出てくるとは思わなかった。
おかしくなって口元をおさえた。
謙信「結鈴、ならぬぞ。あの狐に誑かされているだけだ。嫁にはやらん」
地を這うような低い声がして振り返ると、さっきまで席を外していた謙信様が戻ってきていた。
眉間に深いしわが寄っていて、明らかに機嫌が悪い。