第58章 時の神
「………」
喉がゴクリと鳴った。
(もしそうだとしたらワームホールを呼んでも30年後には行けない。
それどころか呼んでも開かないんじゃ……)
様々な仮定が頭を巡る。
佐助くんも同じようで、顎に手を当てたまま動かない。
誰も口を利かないまま沈黙が続き、それを破ったのは謙信様だった。
謙信「結論のでない話をいつまでも考えたところで始まらん。
それぞれ思うことはあろう、この話は後日に持ち越しだ」
信玄「……そうだな」
固い表情で信玄様が同意を示す。
信玄様は病を治し、幸村や家臣の人達と一緒に国を取り戻そうと考えていたはずだ。
それに奥さんや子供だって残してきている。
「………」
信長様と光秀さんは窮地に陥った経験からか、事実を受け止め落ち着いているように見える。
蘭丸君が少し寂しそうにしているのは顕如さんを想ってのことかもしれない。
志を持って生きてきた人達ばかりだ。
唐突に人外の力が、信念ごと根こそぎ奪ってしまった。
(皆の気持ちを思うと胸が痛いよ……)
謙信様が結鈴を湯浴みさせたいというので、私は仕度をするために立ち上がった。
謙信様達が持ってきた荷物の中にお鍋を見つけたので、お湯を沸かす。
鍋の底から小さな気泡がぷく、ぷく…と浮いているのを虚ろに見つめる、
「……」
命は助かった。
でも、これから皆どんなふうに生きていくのだろう。
胸が痛い。
この北の地で、私達はどうすれば良いのだろう。