第58章 時の神
乱れていない髪を意味もなく撫でつけてから佐助君に向き直った。
「佐助くん、ごめんね。それで、これからどうしようか。
もう一度ワームホールを呼んで30年前に行くのは危ない気がするし」
佐助「そうだね。歴史を修正する力があると仮定して、30年前に戻ろうとすれば謙信様をはじめ、信長様や光秀さん、蘭丸さん、おそらく信玄様もだけど、その身に良くないことが起きる可能性がある」
私が居れば良いと決めている謙信様以外は、どの面々も思案げだ。
相手が人であれば対策はいかようにもたてられるメンバーなのに、今回はそうもいかない。
「…なんでワームホールは信長様と光秀さんのところに発生したのかな」
歴史を修正したいなら、言葉は悪いけどそのまま放っておけば信長様、蘭丸君、光秀さんの三人は死に至り、歴史通りになったはずなのに。
佐助「それは俺も考えていたんだけど……。
ワームホールは信長様と光秀さんのところに『開いた』んじゃなく『開かれた』んじゃないかと思うんだ。
舞さん、君はワームホールに飛び込む瞬間、信長様のことを考えていなかった?」
突然そう言われて私は困惑し、謙信様が読めない瞳でこちらを伺っている。
「そう言われれば……」
ワームホールを呼ぶ時、信長様を思った。
信長様を助けたことから全てが始まったと、その姿をまざまざと思い出した。
「会いたいと思いました。信長様に」
信長「……」
少し離れた場所に座る信長様と目が合った。
謙信「……」
すぐ傍に座っていた謙信様が目を伏せたのを見逃さなかった。
空けていた距離をつめ、謙信様の手を握った。
謙信「……?」
「信長様にはお礼を言いたかっただけです。他意はありません」
小声で気持ちを伝ると、安堵したのか曇っていた眼差しが晴れ、重ねた手を力強く握り返された。