第58章 時の神
謙信様は生きようとしてくれている。
出会った頃はいつ死んでもいいと、生き急ぐようにしていたのに……
「謙信様……」
こんなに大事に想ってくれて、命を大切にしてくれて、嬉しい。
感動で鼻の奥がツンとした。
「私も謙信様が居てくださるならどこであろうと、いつであろうと構いません。
ずっとお傍に置いてください」
涙をこぼした私に、謙信様は懐から手ぬぐいを出して拭いてくれた。
優しい手つきとは裏腹、切れ長の瞳はゆらゆらと揺れ、熱を宿している。
(?)
耳元に形良い唇が寄せられ、吐息混じりの掠れ声が流れこんでくる。
謙信「言われなくともお前を離さぬ。
あまり愛らしいことを言うと、この場で口づけるぞ。これでもお前に触れるのを耐えているのだからな」
「!?」
誰にも聞かれないよう低く落とされた声は心臓に悪い。
(い、今、せっかく感動していたのにっ)
皆の前でキスされてはかなわないと距離を取ろうとするも、
謙信「どうした?『ずっとお傍に置いてください』と言ったのはお前だぞ?」
謙信様が気分良さげに笑った。
意地悪な顔は悔しいほどかっこいい。
(時と場合がっ!!)
ぐいぐいと身体を引き寄せられ、反対に私は離れようと必死だ。
なんとなく部屋に漂っている空気が生暖かい。
佐助「ごほん!謙信様、舞さんに会えて嬉しいのはわかりますが、皆さんが目のやり場に困っているので後にしてください」
見ると佐助くんがわざとらしく床に視線をずらし、隣に座っている信玄様も『またか』と苦笑いしている。
信玄「やれやれ相変わらず仲睦まじいな」
信長様と光秀さんは生ぬるーい視線で微妙な顔をしているし、蘭丸くんは結鈴と龍輝に『はい、見ちゃ駄目だからねー』と後ろを向かせている。
「もう!謙信様、皆さんに気を使わせちゃってるじゃないですかっ!離れて離れて!」
固い胸板をぐいと押して、座布団一枚分くらい距離をとる。
謙信様は些か不満そうだけど、気にしない。