第3章 看病一日目 可愛いは褒め言葉
昨夜、自分で髪をまとめていたところを見ると、侍女にやってもらったのでなく自分で結ったのだろう。
(このような結い方は、髪結いの者達も知らぬのでは……)
またひとつこの女の引き出しが開いた。
持っている術の特異性を理解していないところが酷く苛立たしい。
誇っていいモノに気が付いていないとは勿体ないと思うが、それを伝えてやるほど世話好きではない。
謙信「先ほどから見たことのない結い方だと思っていた。似合っているから良いのではないか?」
言いたい事を飲み込み、感想だけ述べると舞は何故か俯き縫物を再開させた。
(怒らせるようなことを言っただろうか?)
その後は会話もなくそれぞれの作業に没頭し、鍋のお湯がクツクツと湧く音だけ部屋に響いた。
横目で女を見ると驚くほどの速さで針を進めている。
(驚いたな。針子の腕も確かなようだ)
敵方の人間、それも女と居るというのに何故か落ち着いた。