第3章 看病一日目 可愛いは褒め言葉
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朝からずっと働き通しだった女がやっと座った。
『安土の姫は働き者で下働きをしている』と聞いていたが、間違いのない事実のようだ。
茶でも入れて休むのかと思えば、持ってきた荷物から裁縫道具を取り出して、縫物を始めた。
(いつもこのように働き詰めなのか?)
さして体力がありそうな体つきではないのに、倒れはしまいか。
女に気を配りつつ越後からの書簡に返事を書いていると、時々舞の視線を感じた。
盗み見かと警戒したが、舞の視線は文字を追っていない。
俺の筆の運びを見て、感心したような吐息を漏らしている。
集中力が切れ何を縫っているか聞くと、佐助用の『ますく』とやらを作っているそうだ。
そう言えば昨夜も、今日も舞は口と鼻を覆うますくをつけている。
丸い目だけが覗き、この女の目は温かみのある薄茶色をしているのだと否が応にもわかってしまう。
……本当は昨夜のうちに作りたかったんですが、眠ってしまいました」
(知っている。直ぐに帰らず天井裏に居たからな)
慎重に動いたつもりだが、物音で人が起き出してこないか待機していた。
別に寝姿を見ようとしたわけではないが、舞は寝仕度もしないまま布団に入ってしまったのだ。
あまりの寝つきの良さに驚いた。
謙信「昨夜はさぞかしよく眠れただろうな」
「ええ。髪もほどかず着替えもせずに寝てしまいました。
おかげで髪をおろせなくてこんな髪型になってしまいました。
本当、姫らしくないですよね」
そうは言うが今日の髪の結い方はなかなかに美しい。
縄目とは似て非なる珍しい編み方だ。