第58章 時の神
表情はないけど目元が柔らかい。
色々説明もしなきゃだけど、先にお礼を言いたい。
「佐助君の忍者グッズのおかげで逃げられたの。ありがとう!」
煙玉やかんしゃく玉のおかげもあったし、佐助君がくれた言葉が勇気づけてくれた。
佐助「どういたしまして。君に煙玉とかんしゃく玉を渡しておいて良かった。はい、これ」
佐助君は懐から小さな巾着を出した。
「これは?」
分厚い生地の巾着を受け取り、感触を確かめると丸いものが二つ。
佐助「早速補充だ。煙玉とかんしゃく玉。このかんしゃく玉は改良版だ。
音量もマシマシで目や鼻にくる刺激臭の成分も入っているんだ
かんしゃく玉兼くさい玉だ」
「くさい玉って初めて聞いたよ、ふふっ」
熱く語る佐助君の勢いに、吹き出した。
(刺激臭…動物には有効だよね。頼もしいな)
巾着を開けようとして佐助君に止められた。
佐助「臭いから開けない方が良いと思う。スカンク並みだ」
「そんなに臭いの!?」
緩めた巾着の口を慌てて元に戻す。
その拍子に袋の中の空気が顔にかかり、息が止まった。
「ぅ…くさいっ!」
謙信「……すかん、く?とはなんだ?」
隣で聞いていた謙信様が首を傾げると龍輝と結鈴がクスクスと笑った。
結鈴「スカンクって動物だよ」
龍輝「おならがとっても臭いの!おならをかけられるとね、匂いがとれないんだって」
ねー!とお互いの顔を見ながらニコニコ説明してくれる。
離れていた分、一緒の時間が嬉しいようだ。
謙信「そのような動物は耳にしたことがない」
『おなら』と聞いて謙信様が微妙な面持ちをしている。
どんな表情でも今は貴重で、胸がジワリと温かくなる。
佐助「日ノ本には居ない動物ですからね。スカンクの説明はあとでします。
それより今はお互いの情報を擦り合わせましょう。
舞さんがどうして信長様と蘭丸さんと一緒に居るのか聞きたいし、俺達と光秀さんがどうして一緒に居るのか舞さん達も知りたいでしょうから」
謙信「そうだな」
謙信様の研ぎ澄まされた視線が、光秀さんと話している信長様へと向けられる。
視線に気づいた信長様は話を切り上げ、皆に小屋の中に入るよう言った。