第58章 時の神
――――
――
結鈴「ママ!!」
信玄「おっと」
坂の終盤で結鈴(ゆり)は信玄様の手から勢いよく飛び降りて、一目散に駆けてくる。
私は目線を合わせるために屈んで結鈴を腕の中に迎え入れた。
「結鈴~~~~~。会いたかったよ」
抱き上げて顔をよく見る。
顔色は良いし、ぷにぷにしたほっぺ、まんまるの目は変わらない輝きを放っている。
(良かった!)
結鈴「へへー、結鈴も会いたかった」
クルンと丸い目を輝かせ、私の頬をぺちぺち叩く。
「い、痛いよ、結鈴」
たまらず下に降ろしたところで信玄様達が到着した。
光秀さんは視線だけで私をなぞっていき、信長様のところへまっすぐ向かっていった。
久しぶりに会った光秀さんは相変わらず涼しげな雰囲気を漂わせ、読めない表情をしていた。
(お礼、言えなかった)
光秀さんの銃撃のおかげで逃げ出せたのに。
白い後ろ姿を目で追っていると信玄様に話しかけられた。
信玄「やあ、姫。危ないところだったな。怪我はないか?」
ゆっくりと落ち着いたトーンが懐かしい。
「はい、おかげさまで。龍輝もこの通り無事でした」
謙信様の腕に居る龍輝を見る。
龍輝(たつき)は久しぶりに信玄様に会えて嬉しそうだ。
信玄「それは良かった」
信玄様はニコリと笑って手押し車のようなものをその場に置き、一息ついた。
その眼差しの先には信長様が立っている。
(あ…どうして信長様と一緒にいるのか説明しなきゃ)
揉める前にと一歩踏み出した時に、佐助君が歩み寄ってきた。