第58章 時の神
二人とも何もしゃべらない。
(……敵同士だもんね)
「謙信様。信長様はずっと私と龍輝を守ってくださいました。
だからというわけではないですが、いきなり斬り合ったりしないでくださいね?」
謙信様には、信玄様のように信長様とぶつかり合うような明確な出来事はない。
個人的に恨みもないだろうし、なるべくなら穏便に済ませてほしい。
小さな声でお願いすると、謙信様の腕に力がこもった。
謙信「お前達を守ってくれたというのなら礼を言うべきだろうが…。
俺以外の男がお前を守ったのかと思うと、無性に腹が立つ」
無茶苦茶なことを言っている謙信様にツッコミを入れたくなったけど、今はその無茶苦茶具合さえ愛しい。
「……相変わらずの謙信様で、なんだか安心しました」
(とにかく今は謙信様に会えて良かった)
疲れ切った身体を預けると謙信様は愛おしげに目を細めてくる。
「結鈴は元気にしていますか?」
見つめられるだけで幸福感が胸を占める。
失くしていたモノを見つけた。もう何も怖くない。
謙信「ああ、元気だ。龍輝が怯えていると知らせたのは結鈴だ。
あれのおかげで舞を見つけ、助けられた」
「結鈴が知らせた?それはどういう…?」
聞きかけた時に小屋へ着き、戸がガラリと開く音がした。