第58章 時の神
(姫目線)
(これは夢なのかな)
信じられなくて試しに名前を呼んでみる。
「謙信様……?」
謙信「なんだ?怪我はないか?」
(返事をしてくれた!)
私の両手を握る手から温もりが伝わってくる。
急いで自分の頬をムニっとつねってみたら、痛い。
謙信様が怪訝そうにしている。
「いたい…。ほ、本物だっ!謙信様だ……っ」
ボロボロと涙をこぼすと謙信様はややあきれ顔だ。
謙信「何を言うかと思えば、お前は起きているだろう。夢でも幻でもない、こうしてお前に触れているだろう?」
いつかと同じやりとり。
優しい手つきで頭を撫でられ、顔の輪郭をなぞるように細い指先が滑る。
その刺激だけで身体が熱をあげた。
(ああ、この触れ方は謙信様だ。また会えた!)
私も触れたくて手を伸ばすと、謙信様が両手でしっかりと握ってくれた。
お互いの存在を確かめるように手が白くなるくらい握り合った。
龍輝よりももっと力強く深みのある瞳から目が離せない。
「うぅ、謙信様。また会えて良かったです、どうなることかと…」
涙が止まらない。
信長「夫の元へ戻れ」
信長様が私の身体を謙信様に引き渡してくれた。
信長様より少し線が細く、でもしっかりとした強さと安定感のある腕に抱かれた。
「うぅ…」
涙があふれた。
頬に謙信様の胸が当たる。
見慣れた白い着物が視界に入るだけで嬉しい。
嬉しくて思わず頬ずりしてしまうほどに。
心の底から喜びが湧きあがってきた。