第57章 双子
(謙信目線)
少し前を行く佐助を追いかけ、無数の石が転がる河原を駆ける。
(舞っ!)
名を呼び、己の存在を知らせたいがクマと合わせた視線を逸らすのは得策ではない。
目を逸らした瞬間、際どいところで均衡を保っているものが崩れる可能性がある。
胸の内で何度も名前を呼び、全力で走る。
クマと舞達の距離は縮まり、お互い足を止めて見合っている。
(早く行かねば次の一歩が命取りだ!)
もどかしいほどに距離が縮まらない。
今以上に近づけばクマは舞を獲物として見定め、襲い掛かるだろう。
何か、逃げるきっかけを作ってやりたい。
少しでもクマの意識をそらせる何かを。
(明智っ!急げ!)
口惜しいがこの状況ではあの男の狙撃が一番有効だ。
気に食わない奴だが以前戦場で見かけた銃の腕は確かだ。
そよと吹いていた風が止んだ時を逃さず、銃弾が俺達を追い抜いた。
弾は舞に触れそうなほど近くを通ってクマに命中し、遅れて銃声が響いた。
明智の居た場所を考えれば、針の穴を通すような見事な銃撃だった。
クマが銃弾を受けて暴れている間に舞が煙玉を使い、まず龍輝が逃げ出した。
ボン!という大きな音がして白い煙が大量に発生し、桃色の着物は林へと勢いよく駆けて行く。
佐助「良かった。舞さん、煙玉を持っていてくれたんだ」
佐助が安堵したのも束の間、煙の中で黒い巨体が動き舞を追いかけていくのが見えた。
謙信「っ!!」
一呼吸の内に煙玉が使われた場所に到着する。
俺よりも一回り小さな草履の跡に唇を噛む。
(このように近くに居ながら助けてやれぬとはっ!)
恐怖と戦っているであろう舞を佐助と共に追いかける。