第57章 双子
信玄「さて放ってきた荷物を取りに行くか。決着がつけば迎えが来るだろう。
それまではここで待機だ。結鈴をこれ以上怖い目に合わせられないしな」
煙玉の煙がほとんどなくなると信玄はそう提案した。
結鈴を連れてわざわざクマが潜む林に入る必要はない。
目線で同意を示す。
結鈴「早くママに会いたいな」
結鈴は唇を尖らせ、煙の跡を目で追っている。
信玄「もう少しの我慢だ。なに、謙信達にかかれば直ぐだ。結鈴のパパは強いからな」
信玄は結鈴の頭を撫で、目線だけを俺に向けた。
信玄「明智…あの場を逃げるきっかけを作り、謙信達が駆けつけるまでの時を稼いだ。
銃撃がなければ舞は子供を助けるために囮になるつもりだったろう。
お前の働きは充分すぎるくらいだ、胸を張れ。なんなら謙信に酒の一杯でも請求してやるんだな」
人の心を読むのは好きだが読まれるのは気に食わない。顔には出さず言い返してやる。
光秀「ふっ、上杉殿にとって舞の命は酒一杯では安すぎでしょう。
欲しいものができた時にたっぷりと頂くとしますよ」
信玄「んー?明智は欲張りなんだな。
まあ、とにもかくにも早く怪我を治せよ」
サラリと俺の言葉を流し信玄は歩いていく。
結鈴「みつひでさんも行こう?」
光秀「ああ」
結鈴に手を引っ張られ歩き出す。
もう一度さっきの場所を振り返った。
(謙信、佐助……頼むぞ)