第57章 双子
信玄「お見事。流石安土一の腕前だな」
結鈴「すごい!みつひでさん!」
銃を肩から降ろすと信玄はゆるりと立ち上がり、煙の向こうを伺っている。
結鈴は耳を覆っていた手を離し、目を輝かせて飛び跳ねている。
光秀「眉間を狙ったんだが、ずれてしまった」
あれではたいした傷にはならないだろう。
いらぬ興奮を与えてしまったかもしれない。
煙玉の煙が風に乗って少しずつ薄れていく。
透ける白い煙の中にクマの姿はない。
(怒り狂って舞を追いかけたに違いない)
あとは駆けて行った謙信と佐助に託すしかない。
(今日はいつになく己の無力さを感じるな)
気付かれぬよう軽く息を吐き、銃を腰に戻した。
結鈴は舞が居た場所を気にしていたが、傍に近寄ってきて俺の手を握った。
光秀「硝煙の匂いがお前の手にうつるぞ、離せ」
助けてやれなかったという想いが胸を塞ぎ、結鈴に思いやりの言葉ひとつ与えられない。
傷つけぬよう小さな手を離そうとしたが結鈴は首を横にふった。
緊迫した状況に怯えていたのだろう、手が震えている。
結鈴「みつひでさん、ママと龍輝を助けてくれてありがとう」
真っ直ぐにお礼を言われ戸惑う。
致命傷を与えられずクマを怒らせただけだ。
光秀「いや、俺は何もしていないに等しい。礼などいらない」
結鈴はますます手の力を強くする。
結鈴「ちゃんと見てたよ。ママがあそこから逃げられたのはみつひでさんのおかげだよ?
ありがとう、みつひでさん」
ふにゃと表情を緩ませ、ぎゅう、と左手を握られる。
くっついたばかりの骨が痛みを訴えるが顔には出さない。
小さく柔らかな手から伝わる温もりが無性に愛しい。
(舞に似て、結鈴も可愛らしいものだ)
そっくりだ。
光秀「………結鈴。お前は太陽のようだな。ありがとう」
小さな頭を右手でぽんぽんと撫でると、結鈴が照れ臭そうに笑った。
(これではまるで秀吉が舞を可愛がっていた時のようだ)
まさか秀吉と同じ行動をとるとは。
それが無性におかしかった。