第57章 双子
結鈴「みつひでさんっ!」
甲高い声にそちらを見ると結鈴が駆け寄ってきた。
信玄に抱かれ、ここまで来たようだ。
あいつによく似た薄茶の瞳が必死に助けを訴えてくる。
結鈴「ママを助けて、お願い!パパが行く前にクマがママ達のところにいっちゃうよ!」
俺は首を振った。
光秀「左手が言う事をきかない。このまま発砲すれば結鈴の母にあたってしまう」
結鈴「そんなっ!」
結鈴がポロっと涙をこぼす。
信玄「左手は派手に折れてたもんな。骨はくっついたかもしれないが力が入らないのは仕方ない…俺の肩を貸してやるよ」
信玄は自分の肩をパン!と叩くと俺に背を向けて腰をおとした。
(銃身をのせろということか。背後から襲われることを考えないのか)
俺が沈黙していても信玄は前を向いたままだ。
光秀「……」
かつては敵だったが、この大自然の中においてその括りは無用のもの。個人的な恨みもない。
舞の命の危機に立ち会い、最優先すべきことは救出だ。
(敏い信玄は俺の思考などお見通しか)
きっと信玄は俺の気持ちに気づいている。
(俺が舞を愛しいと思っていることを)
気付いていながら謙信に教えていないようだが。
謙信が知ったなら同行を許すはずがない。
信玄の意図を探り、一つの結論に辿り着く。
(あの小娘、甲斐の虎までも虜にしたのか)
光秀「ふっ、かたじけない。肩をお借りします」
信玄の肩に銃を乗せ照準を合わせた。左手は補助に添えるだけにする。
光秀「風が止むのを待つ」
右手の人差し指を引き金に乗せ、その時を待つ。
視界の隅で立ち尽くしている結鈴に声を掛けた。