第57章 双子
(光秀目線)
じゃりっと音を立てて立ち止まると佐助と謙信との距離がぐんぐんとひらいていく。
無理をしたせいで背中と腰の傷がズキズキと痛む。
光秀「寝込んでいるうちにすっかりなまってしまったな。こんな時に身体が思うように動かないとは、不覚」
その場で火縄に火をつけ、時を待つあいだ風を読む。
光秀「この距離で風か…」
左手で銃身を支え、黒い獣へと照準を合わせる。
使い込んだ相棒のクセは知り尽くしている。
そのクセと距離を計算し、狙う場所をやや横にずらす。
ひゅう
髪が横になびく。
佐助と謙信が桃色の背中を追っているが、まだ遠い。
風がやまず銃身をおろした。
風を待つ間、少しでも距離を縮めた方が良いと判断し、再び走り出す。
舞は横に移動して林のほうへ向かっているようだった。
しかしいよいよクマと近くで対峙し、舞は動きをとめた。
(もう猶予はないな)
移動を止め、照準をクマの眉間に合わせる。
(照準は合わせた。あとは風が止むだけ)
瞬きもせずその瞬間を待つ。が、その照準がわずかに揺れ始めた。
骨はくっついたが、骨折した左手が同じ姿勢を保っていられないようだ。
(距離がある上に手が震えているようでは射撃もできんな)
力なく銃を下ろした。
光秀「これを重いなどと思ったことはなかったというのに。肝心な時に役にたたないな」
いう事をきかない左手を見つめる。