第57章 双子
結鈴「パパ!龍輝が怖がってる!」
伝染したように結鈴の身体がガタガタと震え始めた。
顔色が真っ青だ。
信玄「結鈴、落ち着け」
荷物を置き終わっていた信玄が結鈴を両手で抱き上げた。他の三人は結鈴の様子に戸惑い、思案している。
結鈴「パパ、助けに行って。早く!」
瞼の向こうで何かを見ようとしているように、結鈴は目を瞑っている。
結鈴「龍輝は川の傍に居るの!たぶん…あっち!」
結鈴が指差したのは川の上流。
謙信は結鈴の声に反応して走り出し、佐助がすぐ後ろを追いかけた。
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――
二人が走り続けてしばらく、結鈴の勘違いかと疑念を持ち始めた頃、前方に小さな桃色が見えた。
謙信「あれは……」
見覚えのある桃色の着物。
こちらに背を向けている姿は紛れもなく舞だった。
すぐ傍に龍輝が立っているのが見える。
やっと会えたと安堵したのも束の間、二人の様子がおかしいことに気づく。
謙信「あれは、クマか!?」
舞が動きを止めている理由に気づき、謙信は背筋を凍らせる。
舞達とそう遠く離れていない場所に黒く大きな獣が見えた。
戦う術を持たない二人がクマに襲われたら一巻の終わりだ。
謙信はちっと舌打ちした。
全速力で駆けているが、まだ距離がある。
謙信「佐助、先に行けっ」
河原には無数の石が転がり、全速力といってもセーブしながら走らなくてはならない。
こういう道ならば、身のこなしの軽い佐助の方が有利に走れる。
佐助は返事をして走っていくが、クマは一歩、また一歩と舞に近づいていく。