第57章 双子
一刻ほど歩くと川音が聞こえてきて、木々の間を抜けると広い河原に出た。
川幅が400mはあるだろうか、みなぎるように溢れる清流が流れている。
佐助「大きな川ですね。水もとても綺麗だ」
佐助は手で水を掬い、水質を確かめた。
これなら体を清めるのに問題ない。
謙信「結鈴、川に近づくな。流されては大変だ」
途中、道が悪くなり手押し車から降りた結鈴は謙信に手を引かれて歩いてきていた。
結鈴「うん」
結鈴は何故か胸の前に両手をあてて嬉しそうにしている。
髪を結っている織紐が風に吹かれて軽やかに揺れている。
佐助「どうしたの、結鈴ちゃん。そんなに川が嬉しい?」
結鈴は首を横にふって目を閉じている。
結鈴「ううん。なんかね、龍輝が近くに居る気がするの」
佐助「え……?」
眼鏡の奥で佐助の目が驚きで見開かれた。
信玄「結鈴はまじないができるのか?」
謙信は目を細めて笑い、信玄はからかい口調で尋ねている。
佐助「………」
しかし佐助だけは現代で耳にしたことのある『双子の繋がり』に考えが至り、黙っている。
光秀「佐助殿。何か気になる事でもあるのか」
佐助「500年後でも解明されていないんですが、双子の間には奇妙な繋がりがあって、片方の思考が流れ込んできたり、離れた場所で同じ出来事に遭遇するなど、様々な事例があるんです」
謙信「何…?」
謙信の表情がみるみる険しいものになり、光秀もふむと目を光らせた。
光秀「なるほど、では結鈴の言葉は気のせいではない可能性があるんだな」
佐助「ええ。ただし科学的根拠がない事例なのであまり期待しないでおきましょう」
不確かなものに期待を寄せないほうがいいと佐助は言った。
謙信「……」
信玄「気長にいこう、謙信。まずは結鈴を綺麗にしてやろう、な」
信玄が謙信の肩をポンと叩き、河原に荷物を置いた。謙信も荷物をおろそうと結鈴の手を解こうとした。
ぎゅっ
突然結鈴の気配が変わり、離れようとする謙信の手を強く掴んだ。
信玄、佐助、光秀も結鈴のただならぬ雰囲気に気づき身構えた。