第57章 双子
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次の日の朝。
信玄「昨日の天気が嘘みたいだな」
佐助「ええ」
潮風を避けるため、予定よりも山側に入り込み一夜を過ごした。夜明けとともに霧は晴れ、ぬけるような青空が広がった。
謙信達がこの地に降り立ってから季節は進み、空には秋らしく羊雲が浮かんでいる。
爽やかな秋風に、色づいた木の葉が揺れる。
謙信「結鈴、おいで」
結鈴「はーい」
胡坐をかく謙信の上に結鈴が座った。
寝起きの結鈴の髪を梳こうとして謙信は顔をしかめた。
いつもならサラサラの結鈴の髪は、昨日の潮風のせいで絡まったまま固まっている。
謙信「これでは櫛が通らないな。
地図の通りであれば、もうすぐ行くと川があるはずだ。そこで一度髪を洗ってやろう。
少しこのままで我慢できるか?」
髪を梳くのを諦め、結鈴の顔を覗きこむ。
片目を擦りながら結鈴は元気に答える。
結鈴「うん!ありがとう。パパ、大好き」
謙信「ああ、結鈴は今日も愛らしいな」
そんな二人の会話を、信玄と佐助は笑みを浮かべた。
信玄「舞が居ないのになんか甘ったるいなー?」
佐助「薄々気づいていましたが謙信様が親馬鹿タイプだったとは…」
謙信「佐助、主に向かって何か言ったか?」
何か言ったかどころか、はっきりと佐助の言葉を聞いていた謙信は刀の柄に手をやっている。
佐助は距離をとると両手をあげて降参のポーズをとった。
結鈴が『またやってるー』とクスクス笑った。