第57章 双子
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その日は朝から海が時化ていて昼頃になると先が見えなくなるほど濃い霧が発生した。
湿った冷たい風が吹き、結鈴は身体を震わせた。
光秀「結鈴、寒いのか?」
めざとく光秀が気付き、ひざ掛けを出して背中から覆うようにかけてやった。
結鈴はそれを首元でキュッと押さえ、えへへと嬉しそうに笑った。
結鈴「あったかい。ありがとう、みつひでさん」
光秀に優しさをもらう度に、結鈴はとても嬉しそうだ。
光秀「結鈴の身体は小さいのだから、冷えやすい。
寒かったら遠慮なく言うようにしろ」
壊れモノに触れるように光秀の指先が結鈴の髪に触れ、結鈴は頬をほんのり染めて頷いた。
佐助は懐から地図を取り出し、謙信と信玄に歩み寄った。
佐助「一度海沿いを離れて、こっちのルートを行ってはどうでしょう。
不快な海風を避けられますし、わずかですが次の集落への近道になります」
謙信と信玄は地図を覗き込み、頷く。
信玄「起伏もそんなになさそうだし良いんじゃないか?」
謙信「そうだな、この様子では今夜海沿いで野営をするのは厳しい」
時化た海から聞こえる荒れた波音が、結鈴を不安にさせている。
それに空気は塩気をたっぷり含み、髪や肌をべたつかせた。
謙信が不快そうに前髪をはらった。
佐助「では行きましょう」
一行は進路を変え、歩き始めた。