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☆一夜の夢☆〈イケメン戦国 上杉謙信〉

第3章 看病一日目 可愛いは褒め言葉


呆れて食事を続けようとしたところで、舞の様子が視界に入った。


(何をしている?)


舞は土間で何かを睨みつけ、じりじりと後ずさりながら後ろ手で箒をとろうとしている。
その様子はまるで子猫が毛を逆立てて威嚇しているようだった。


(ふっ、虫でも出たのだろうな)


騒々しく叫び声をあげないあたり、きっと俺達に気を使ってのことだろう。
虫をも殺さぬような顔をして一体どうするつもりなのか。


(手を貸してやるか)


女に殺生はさせたくない。


謙信「そのように毛を逆立てて何をしている?」


舞が慌てた様子でこちらを見ると、その拍子に素早い動きで「それ」が走り出した。
ネズミだと気が付いた時には舞が戸を開け放ち、箒で勢いよく道端へと掃き出した。

美しく結った髪が勢いでサラリと舞いあがった。

チュッ!という短い鳴き声がして小さな体が飛んでいき、舞は勢いよく戸を閉めた。


「はぁ、びっくりした」


箒の柄を握ったまま呆然とし、


「怖かったー」


と、ため息を繰り返している。


(驚いたのはこちらだ。ただの虫かと思っておればネズミだったとは…)


ネズミに噛まれれば病をもらう。急いで女の足を確認した。

着物の裾をまくって確認するも、白い足首がチラリと見えただけだった。
足袋に汚れはなく出血箇所はないようだ。


「平気です、謙信様。どこも噛まれていません」


そう言われ、やっと安堵する。


謙信「存外気が強いのだな。そんなに恐れる相手なら俺を呼べば良いだろう?」

「たかがネズミ退治に謙信様の手を煩わせるなんて出来ません。それにやればできるんですから自分でやるべきです」


(そんなことを言って、万が一噛まれたらどうするのだ)


頼るべき時は人に頼れば良いものを。


謙信「『たかがネズミ退治』に随分と毛を逆立てていたな。
 お前は本当に姫らしくない」


こう言えばちょっとはしおらしくなり、素直に助けを呼ぶようになるだろうかと思ったのだが、


「だから私は姫ではないと言ったはずです」


怒っているのに悲しそうな表情をする。


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